民法第750条

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条文[編集]

夫婦

第750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻のを称する。

解説[編集]

民法上の氏の変更に関する規定の一つである。

夫婦同氏の原則を定めており、いわゆる選択的夫婦別氏制度は現行の民法では認められていないが、特定の社会的活動の場において通称として旧姓を利用することまで禁止する趣旨ではない。

旧民法では、結婚は妻が夫の家に入ること、という伝統的な考え方を反映して、妻が夫の氏を称する、と定められていたが(旧・民法第788条)、両性の本質的な平等(日本国憲法第24条)の成立後に改正され、上記のように改められている。

婚姻届には、夫婦の称する氏を記載しなければならない(戸籍法参照)。

なお、この条文には、結婚を期に新たに第三の氏を称することを禁止する意味もある。

現在、婚姻後も夫婦共に氏を変えない制度対応(夫婦別姓)を求める議論がなされている。なお、国際結婚においては別姓が認められている。

関連条文[編集]

判例[編集]

  1. 損害賠償請求事件(夫婦別姓を求めたもの 最高裁判決 平成27年12月16日 民集第69巻8号2586頁)憲法13条1項、憲法14条1項、憲法24条
    1. 民法750条と憲法13条
      民法750条は憲法13条に違反しない。
      • 氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
    2. 民法750条と憲法14条1項
      民法750条は憲法14条1項に違反しない。
      • 本件規定は,夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており,夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが,本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。
    3. 民法750条と憲法24条
      民法750条は憲法24条に違反しない。
      • 氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
      • 夫婦が同一の氏を称することは,家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義がある。夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすい。
      • 本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。
      • 婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。しかし,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る。
      • 上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。

参考文献[編集]

  • 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分)
  • 泉久雄『親族法』33頁、65頁、89-100頁(1997年、有斐閣)

参考[編集]

明治民法において、本条には以下の規定があった。

  1. 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
  2. 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
  3. 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル

前条:
民法第749条
(離婚の規定の準用)
民法
第4編 親族

第2章 婚姻

第1節 婚姻の効力
次条:
民法第751条
(生存配偶者の復氏等)
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